本ブログでは、 Modelon Impact を活用した既存のエネルギーを利用した電力システムへの 水素エネルギー (Hydrogen Power) 利用の導入支援事例をご紹介いたします。

二酸化炭素排出量を削減し、気候変動を緩和するために、化石燃料を水素に置き換えることは再生可能エネルギー導入拡大のためには重要なステップとなり得ます。炭化水素 (主にメタン) からなる天然ガスと比べ、 CO2 排出量削減の可能性は化学反応式からも明白です。天然ガスは炭素の含有率が高いため、その燃焼副産物には CO2 が含まれています。対照的に、水素ガス (H2) は CO2 を全く生成せず、酸素との燃焼で水 (H2O) のみが生成されます。

エネルギー産業の企業各社による CO2 排出量削減を支援するために、電力システムのためのコンポーネントを作っている OEM 各社はより多くの水素ガスを処理できるバーナーを開発しています。たとえば最近では、 Siemens 社が人気の高い SGT-600 ガスタービンシリーズの燃焼ガスにおける水素の割合を 2020 年の 20% から 2030 年には 100% に増やすと発表しました。既存のガスネットワークに再生可能エネルギーを使って生成した水素を混ぜてその割合を増やすことは、排出量を削減し、エネルギーシステムを多様化するためのサステナブルソリューションです。

多様化する未来のエネルギーシステム
多様化する未来のエネルギーシステムへの水素燃料の導入

エネルギー企業の水素導入が進まないのはなぜか?

天然ガスを水素ガスに置き換えることができる多くのアプリケーションにおいて、エネルギー企業各社は、手元のシステムを最適化できるよう、カスタマイズされた水素対応バーナーやガスタービンが提供可能なコンポーネントメーカーを必要としています。しかし、新しいサブシステムを組み込むためには、以下のことが要求されます:

  • 最適な水素燃料コンポーネントの特定
  • 水素ガス用に新しく開発されたバーナーの装備、また従来の天然ガス用の設備で水素ガスの割合を増やした燃料の利用において既存システムを適応

水素エネルギー は、天然ガスと比較すると排気ガスの水分量が多くなります。その結果、想定されていた従来の排気ガスと熱容量が異なり、下流の熱交換器に影響を与え、適応せずに既存のシステムと組み合わせると、最適な運転ができなくなります。さらに、排気ガスの温度が露点温度を下回ると、水分量自体が問題になり、水と酸が凝縮し、腐食や維持費の増加、システム障害を引き起こす可能性が生じます。

Modelon Impact を活用した、発電所への 水素エネルギー 導入の準備

火力発電ライブラリ (Thermal Power Library) を含むモデロン製 Web ベースのモデリングプラットフォームである Modelon Impact を利用すると、基本的に値を設定してボタンを押すのみで、燃料組成の様々な組み合わせでシミュレーションできます。燃焼と下流のシステムのシステムシミュレーションが可能な既製の媒体モデルとして、メタンガスや水素ガスだけでなく、高次炭化水素やその他の可燃性・不活性ガス成分など多種多様な成分が用意されています。燃焼成分モデルには、化学反応式だけでなく、質量とエネルギーの方程式も含まれています。

さらに、熱交換器、流路モデル、ターボ機械などの様々なアプリケーション用のコンポーネントが利用可能であり、グラフィックモデルキャンバス内でコンポーネントを接続してシミュレーションすることができます。また、事例システムとして、コンバインドサイクル発電所モデルなどが用意されていてすぐに利用できます。

エクスペリメントモードでは、様々な動作点での水素含有量など、入力パラメータの大規模なセットをシミュレートできます。

ユースケース:既存の複合サイクル発電所の改修

天然ガスプラントは通常、数十年にわたって稼働できるように設計されており、発電や地域熱向け排熱回収ボイラなどの他のコンポーネントと適切に統合されています。適応の典型的なユースケースとして、既存の天然ガス焚きガスタービンを持続可能な水素ガス焚きガスタービンに置き換える例があります。ガスタービンのサプライヤーが、コンバインドサイクルシステムの既存のタービンを置き換えるために、サイズ、定格出力、入口・出口温度が完全に一致するものを提供できたとしても、システムに組み込むには依然として課題が残されます。下流の排熱回収ボイラは以下の影響を受けます:

  1. 排気ガス組成 – 湿度の上昇、二酸化炭素排出ゼロ
  2. 排気ガス熱容量の変化 – 排気ガス中に増加した水分の比熱は、置換された二酸化炭素の二倍以上
  3. 燃焼用空気量・排気ガス流量の変化 – 既存のシステムを変更せずに水素燃料に置き換える場合、出力・タービン入口温度を一定に保つための燃焼用空気量の調整が不可欠。その結果、燃焼用空気量と排気ガス流量が減少。

前述のフレキシブルな燃焼コンポーネントとコンバインドサイクル発電所のシステムモデルを組み合わせることで、あらゆるレベルの影響を評価することができます。

結論

Modelon Impact を使用し、プラント全体のモデルをシミュレートすることで、既存の天然ガスを用いるプラントに必要な適応に関して次の結論を得ることができました。

  • ガスタービンが理想的な方法で設計されている場合、 HRSG の熱流分布への影響はわずかであると予想されます。水分量の増加による排気ガスの比熱の増加は、排気ガスの総流量の減少を補っています。ただし、設計条件にピッタリ合致せず選択されたガスタービンやダクトバーナーは、熱流分布に大きな変化をもたらすため、効率性の低下と同時に危険な操作の可能性につながります。
  • 排気ガスの水分量を増やすことは、いずれにせよ工学的な挑戦となるでしょう。既存の排熱回収システムは、最大の効率を得るために排気ガス出口温度をできるだけ低くするように設計されています。排気ガスの湿度が上昇すると、熱交換器での水分の凝縮やそれによる汚れや腐食が発生する可能性があります。

これまで述べてきた技術的課題は、水素ガス発電所の設計プロセスや、既存のエネルギーシステム水素対応バーナーを後付けする際に、弊社の包括的なシミュレーションツールボックスを使用して対処することができます。さらに、既存のエネルギーシステムを継続的に安全・効率運用するために、 Modelon Impact 上でライブ入力を利用した動的モデルを連続シミュレーションと組み合わせることで、システムの監視・評価が可能となります。