本ブログでは、大気中の二酸化炭素を回収して除去する技術、ダイレクト・エア・キャプチャー(以下DAC)に焦点を当てています。Modelonのエネルギー業界のエキスパートであるFriedrich Gotteltが、DACのプロセスを順を追って説明し、Modelon Impactに搭載されたモデル例を使用して、この技術を現在のシステムにどのように統合し、シミュレーションするのか、その方法についてご紹介します。

はじめに

気候変動に伴い、各企業は二酸化炭素排出量削減への取り組みを強化しています。これは、CO2レベル全体の削減に向けた重要な第一歩となります。炭化水素燃焼のループを閉じて化石燃料を代替するためには、大気中からCO2を抽出する技術が重要な役割を果たします。DACはそのような技術であり、開発の初期段階にありながら、さまざまな産業のカーボンニュートラル化に貢献することが期待されています。 

DACの仕組みとは?DACとは、大気中の空気を取り込み、一連の化学反応によって二酸化炭素を抽出し、残りの綺麗な空気は環境に戻すというプロセスです。植物や木が毎日光合成をするように、DACは大気中から二酸化炭素を抽出しますが、より速いペースで、より小さな土地でそれを行うことができます。さらに、抽出したCO2は貯蔵して再利用することができ、例えば、プラスチックの原料や合成燃料の主成分であるグリーンメタンを合成することができます。このように炭素を再利用することで、持続可能な産業ソリューションが実現できるのです(図1参照)。 

図1: 合成燃料を用いた未来のクローズドCO2ループの一環としてのDACプロセス 

DACの課題

DACは大きな可能性を秘めていますが、商業的に展開していくには課題があります。DACは、設計と建設に多額の資本投資が必要であり、運用コストにも大きな負担がかかります。これらのコストを軽減するために、企業はモデルベース設計とシステムシミュレーションを利用して、建設と展開の前にDACシステムの解析と最適化を行い、現実のシステムが目標を満たすことを確認しています。システムシミュレーションを使用すれば、プロジェクトに資金を投入する前にさまざまなシナリオをテストすることができます。

Modelon Impactに搭載されたモデルを使用したDACのモデリング

DACプロセスは、Modelon Impact に搭載されたモデルを使用したDACのモデリングおよびシミュレーションをすることができます。図2では、完全なシステムモデルをさまざまなステップに分解して、プロセスがどのように機能するかを確認することができます。

図2: Modelon ImpactのDACモデル一式

DACプロセスを理解するために、まずコントローラとそのシステムとの相互作用について確認します。コントローラは、ラッシュアワー時の交通信号とよく似ています。コントローラは、プロセスの中で何が起こるべきか、そのアクションがいつ起こるべきかを決定します。コントローラがシステムの変化を把握するために、温度や化学物質の濃度を測る複数のセンサーを関連する配管や部品に設置します。そして、ある閾値を超えると、コントローラーは次のステップに進みます。 このコントローラは、Modelon Impactに搭載されている機能なので、すぐに使用することができます。

図3: Modelon Impactのコントローラを中心にしたDACモデル

ここで、サイクルのプロセスをステップで考えてみましょう。DACの仕組みをステップごとに分けることで、Modelon Impactでどのようにモデルをシミュレーションできるかを理解することもできます。

ステップ1:空気中から二酸化炭素を抽出

DACを開始するためには、環境から約420ppm(局所的・季節的変動、指数関数的傾向あり)の二酸化炭素を含む空気が吸着設備「adsHX」に流入します。この段階では、システムは常圧で、その後、吸着装置に吸着材を充填します。吸着材はマイクロチャンネル構造で、吸着装置を通過する間に巨大な表面が外気にさらされます。さらに、吸着材を加熱したり冷却したりするための熱交換チューブが装備されています。吸着材の重要な特性は、環境条件下でCO2分子をその表面で結合させることで、これにより、空気中のCO2濃度が下がり、吸着材表面に保持されます。

吸着装置の裏側のCO2濃度が設定したしきい値を下回り、空気中のCO2がほとんどなくなると、コントローラは次のステップに進みます。

 
図4: 大気からCO2を抽出するDACモデル

ステップ2:システムからの空気の除去

ステップ2では、吸着装置から真空で空気を除去します。さらに、蒸気発生器の2段目の蒸気を吸着塔の流路に送り込みます。これにより、残った空気(二酸化炭素を含まない純粋な空気)は、大気(atm)に追い出されます。

きれいな空気が追い出されると、吸着装置の流路には水蒸気が残り、その表面には二酸化炭素が吸着された状態になります。低エネルギーで運転できるように、圧力を下げ、温度を高くしています。

図5: 蒸気の混合と大気への純粋な空気の排出を示すDACモデル

ステップ3:吸着装置の温度上昇

ステップ3では、mT(液入)、Tp(液出)と表示された加熱路を通してエネルギーを加え、吸着材を加熱します。吸着材の温度が上がることで、C02が脱着されます。三方弁はシステムを開放するように切り替わり、CO2蒸気混合物を凝縮器へ処理します。

図6: CO2が脱着されるDACのモデルステップ

ステップ4:水蒸気と二酸化炭素の分離

吸着装置のすべての流路に水蒸気と二酸化炭素が行き渡ったら、制御装置はさらに蒸気を注入し、二酸化炭素と水蒸気混合物を追い出します。三方弁を閉じて大気に開放することで、水蒸気と二酸化炭素の混合物はコンデンサーに導かれます。コンデンサーは、水蒸気を凝縮させるための冷たい表面を持つ熱交換器です。水蒸気をCO2と分離し、水蒸気は貯蔵用のタンクに入ります。残ったのは気体のCO2で、これを圧縮してタンクに貯蔵します。

図7: DACプロセスの最終段階 – 純粋なCO2を回収し、貯蔵

次のサイクルのための吸着装置の再加圧と冷却

吸着サイクルを新たに実行するために、システムを再び加圧し、冷却して準備します。DACプロセスの結果、残ったCO2はタンクに回収され、貯蔵さ れます。CO2の利用方法は、各社によって異なります。貯蔵されたC02を再利用する一般的な方法には、次のようなものが挙げられます。

  • メタン(炭化水素の基本物質)を作り、施設で燃焼させる。例: モーターエンジンやガスタービン。
    • 化学プロセスと統合してプラスチックを作ります。

このプロセスを数学的に記述するためのモデリング機能は、Modelon Impactに搭載されています。 これらの経済性評価は、Modelon Impactの火力発電ライブラリのマイクログリッド・パッケージとその最適なコ・デザイン機能によってサポートされています。特にここでは、蓄電システム(熱と電気)が価格と再生可能エネルギーの生産量の変動を相殺することを可能にします。また、システムを収益化するための市場要件(例: 二酸化炭素税)を理解し、投資収益率を短縮するために統合的なハイブリッドエネルギーシステムを設計することができます。

Modelon Impactを用いたDACのシミュレーション

モデルが構築されると、エンジニアは、その特性をシミュレーションすることができます。

  • システムのサイジング
  • 制御システムの設計
  • スケーリング効果の考慮システムのサイジングと制御における地域気候の影響
  • 再生可能エネルギー源からの多様で断続的な電力供給を伴う、ローカルで統合されたマイクログリッドにおける最適な経済的配電

Modelon Impactには、事前に構築されたモデルを使用したモデリング機能があり、そのようなシミュレーションの結果は、以下の図8に例として示されています。

Modelon Impactは、エンジニアが時間の経過とともに結果を視覚化できるラインプロットやグラフを表示します。シミュレーション結果を分析することで、基礎となるプロセスとその結果との相互作用を非常に深く理解することができます。製品開発の初期段階において、プロトタイプや生産設備に資本が投下される前に、リスクを低減し、製品を最適化するのに役立ちます。

図8: Modelon Impactでのシミュレーション結果 – プロセスの全体像(左)とコントローラによる管理方法(右)

Modelon Impactの使いやすいドラッグ&ドロップによるプロット機能とは別に、Modelon Impactに組み込まれたPythonとの連携機能を使って、上のプロットで示したように結果を後処理することが可能です。モデルおよびその結果の展開は、Modelon Impactのユニークなコラボレーション機能を生かして、専門家同士の議論を手助けしています。後の段階では、サイト固有の設計を検討するためのウェブアプリや、オペレータのメンテナンス計画を支援するデジタルツインのバックボーンとして機能します。

結論

Modelon Impact はDAC プロセスを可視化し、統合し、最適化することを可能にします。プロセスの重要な側面には、与えられた気候条件とシステム規模に応じて最適化される循環運転コントローラが含まれます。Modelon Impactを使用することで、DACシステムは、設計の初期段階で、最小のコストで最大のCO2収量を得られるように設計することができます。これにより、プロジェクトのリスクと試運転のコストを削減することができます。さらに、同じシステムシミュレーションモデルをデジタルツインに適用することで、ほとんど追加コストをかけずに予知保全と最適化された運用を実現することができます。その結果、システム全体の設計が確立し、年間を通じて変動する市場条件下で、電力供給や総運転時間に関する信頼性の高い経済的な調査を行うことができます。