BabcockPower(以下Babcock Power社)は、Modelon Impactを使用して、新しい燃料や再生可能エネルギー源を取り入れ、変化するエネルギーを取り巻く状況において、産業用ボイラー性能を予測し、改善しています。

世界のエネルギー生産においては、企業による気候変動の影響を緩和する取組みが進められています。再生可能エネルギーやその他の断続的なエネルギー源は、適切に緩和策が講じられることにより、二酸化炭素排出量を削減し、さまざまな場面で優れた性能を発揮することができ、コスト効率も高いものとなります。再生可能エネルギー生産の増加は、従来ベースロード電源として稼働し、現在はピーク時または負荷追従ユニットとして日常的に使用されている既存の火力発電所に対して、独特の問題を提起します。

これは、温度、圧力、流量を調整することで変化する需要に対応するため、すべてのプラントシステムに負担を負わせます。Babcock Power社は、天然ガス転換やその他のエネルギー関連製品とサービスを提供する世界を代表する企業です。

Babcock Power社は、100年以上にわたって顧客にサービスを提供する複数の事業部門を持ち、最高レベルの品質を維持しながら、変化する世界のニーズに対応するための革新を追求し続けています。現在Babcock Power社には、日々顧客から多くの問い合わせがあり、グループの能力を最大限に発揮できるよう努めています。そのためには、様々な燃料の性能を予測し、負荷の変化に関連する短期的な影響を把握すると同時に、存在する多くの独特なボイラー構成に対応できる柔軟性を維持する必要があります。

課題

産業用ボイラーを設計・運用するにあたり、高い効率性を実現することは、運用コストと環境への影響を最小限に抑えるために極めて重要です。産業用ボイラーは、高圧力と高温の下で運転されるため、安全性に関する課題がいくつかあります。故障を防ぐためには、堅牢な安全機能、緊急停止システム、規制基準の遵守が不可欠です。さらに、Babcock Power社は、ボイラーのシステムが長期間にわたり連続稼働することを保証するために、その形状がボイラーおよび関連機器に与える影響を評価する必要があります。

Babcock Power社のシニア・エンジニア、マイケル・ジョンソン氏は、こうした課題を強調しています。
「自然エネルギーを迅速かつ効果的に取り入れるには、既存のボイラーがさまざまな負荷や燃料源にどのように対応するかを理解することが重要です。私たちは常に最適なツールを見つけ、それを活用したいと考えています。システムモデリングとシミュレーションは、私たちのエンジニアリングツールチェーンの重要な部分です。」

従来のボイラーシステムの解析は、定常状態で行われます。しかし、定常状態シミュレーションでは、負荷が高くなる時に見られるような短期間の変化を予測することはできません。このような変化は、新しいエネルギー分野では頻繁に発生します。産業用ボイラーを設計しシミュレーションを行う際には、非定常解析シミュレーションが不可欠です。

Babcock Power社は、自社でシステムモデルを構築し、シミュレーションソフトウェアを開発、長年にわたり専門知識をシステムに取り入れてきました。インハウスツールは柔軟性に富んでいますが、多くの場合、多数のコンポーネントモデルの構築と検証が必要になります。Babcock Power社は、産業用ボイラーを開発する際に、インハウスツールの能力では要件を満たせなくなりました。

産業用ボイラーをモデル化し、シミュレーションするために、Babcock Power社は、次のような機能を備えたシステムモデリングおよびシミュレーションツールを求めていました。

  1. 堅牢な非定常シミュレーション
  2. 事前構築済みコンポーネントとメディアモデルのカスタマイズ
  3. 稼働データを使用したモデルの検証と調整
  4. 基礎物理学を応用したモデリングシステム
  5. インハウスツールから既存のワークフローを再現する

ソリューション

そこで、Babcock Power社は、産業用ボイラーのモデリング能力を向上させるため、Modelon Impactを選択しました。

Babcock Power社は、ModelicaベースのシステムモデリングおよびシミュレーションツールであるModelon Impactを導入することにより、大変有用なカスタマイズが出来るようになりました。モデロンのThermal Power Library(火力発電ライブラリ)から有効なライブラリコンポーネントをBabcock Power社独自のコードと組み合わせることは、モデルを開発する上で非常に重要でした。Babcock Power社のチームは、Modelon Impactのドラッグアンドドロップのユーザーインターフェースを使用し、モデルのコード編集が可能になり、モデルのグラフィカルな表現を同期することができるようになりました。

マイケル・ジョンソン氏は、その利点について次のように説明しています。
Modelon Impactを使用することで、堅牢な非定常システムモデルを構築することができました。事前構築済みのコンポーネントにより、ゼロから設計を始めるのではなく、設計の改善に専念することができます。モデロン社のカスタマーサクセスチームは、私たちの質問に対して常に回答し、私たちがプロジェクトを推進できるように積極的にサポートをしてくれました。」

Babcock Power社のチームは、モデロンのエキスパートとともに、マスターモデルと多数のコンポーネントモデルからなる階層構造モデルを構築しました。この構造により、サブコンポーネントを追加したり、削除したり、異なる詳細レベルのモジュールに置き換えたりすることが可能になりました。

この発電所システムは、火力発電ライブラリの事前構築済みのサブモデルとメディアプロパティモデルを活用しました。同モデルは、Babcock Power社の顧客の1社が運営する発電所の原図と修正図面にフィットしていました。

同モデルには、マルチ燃料燃焼装置サブシステムモデル、高温の排気ガスから水蒸気サイクルに熱を伝達する複数の熱交換器を備えたボイラー、および蒸気タービンモデルが含まれています。熱伝達モデルは、放射炉と、低温対流熱伝達モジュールを含むバックパスで構成されています。

 

図1:発電所システムのトップレベル回路図。水コネクタ、ガスコネクタ、入力、コントローラ、センサー間の信号接続を含む。

Babcock Power社は、詳細なボイラーとシンプルなプラントモデルを使い、運転データを使用してモデルの検証と微調整を開始しました。モデルのキャリブレーションには、運転データの正確性が極めて重要でした。運転データは10分間隔で収集され、1年分の運転データから着目した間隔が特定されました。蒸気温度、圧力、流量、煙道ガス温度、酸素濃度などが全てデータセットに含まれていました。運転データは、モデルの調整時に典型的な運転範囲を定義し、ベースロード電源の安定稼働に役立ちました。

結果

モデロンの業界エキスパートによるサポートを受け、当モデルは物理ユニットの性能を特徴づけに成功し、過渡現象時の動作に関する貴重な予測を可能にしました。

Babcock Power社のモデルは、負荷に追従するユニットの適切なランプレートを、より効果的に計算し、実際の運転条件下で異なる燃料を使用した場合の将来の性能予測に役立ちます。調整されたモデルにより、定常状態シミュレーションや、社内ツールだけでは不可能なシステムの動作に関する貴重な洞察を得ることができます。

図2:固体燃料燃焼装置とカスタマイズされたガス燃料燃焼装置の両方を含むDUAL燃料システム。

マイケル・ジョンソン氏はまた、次のように述べています。「ランプレートの予測と管理は、私たちの顧客の発電所の安全性と寿命にとって必要不可欠です。Modelon Impactでモデルの過渡解析を行うことで、顧客と共有できる洞察が得られ、私たちの提供する製品とサービスに対する顧客の信頼が高まります。」

モデリングとシミュレーションに対する細かいアプローチは、短期的または長期的に見てBabcock Power社とその顧客のプロジェクト推進に貢献しています。運転と保守の戦略は、信頼性の高いデータを使用して作成されます。制御戦略が改善されると、主要コンポーネントへの負荷を制限することで、負荷追従ユニットのメンテナンスの必要性を減らすことができます。

「モデロンとの協力は、私たちが業界の最前線に立ち続けるために必要です。私たちは、より安全で信頼性の高い発電につながる、より多くの情報に基づいて、エンジニアリング上の意思決定を下すことができます。」と、マイケル・ジョンソン氏は締め括ります。

Modelon Impactとモデロンのエネルギー分野のエキスパートは、Babcock Power社のモデリングとシミュレーションプラットフォームに対する初期要件を上回っていました。事前構築済みのライブラリ、クラウドネイティブプラットフォームの実用性と私たちグループの知識により、Babcock Power社は、より持続可能なエネルギー産業を実現していくための戦略的決定が出来るようになりました。