シーメンス・エナジー社は、既存のヒートポンプ技術に最先端のエネルギーシステムを統合するため、Modelon Impactを採用しました。

課題

シーメンス・エナジー社のヒートポンプシステムSHP-C600は、80年代半ばに始まった定評ある技術です。50台を納入し、累計600万時間以上稼働したこのシステムは、海水、下水処理水、外気、地熱などの熱源を利用した地域暖房システムに15~40MWの熱エネルギーを供給することができます。これらの熱源を通じて、シーメンス・エナジーのヒートポンプは電気エネルギーで消費する熱量の3~5倍の熱を生み出すことができます。

Siemens Energy Heat Pump
図1:地域暖房システム向けに最大40MWの熱を生産するヒートポンプシステム「SHP-C600」。蒸発器、サブクーラー付きコンデンサー、膨張弁、フラッシュタンク、2段式コンプレッサーが含まれます。

シーメンス・エナジー社のヒートポンプは定評ある製品ですが、進化するエネルギーシステムに統合することは課題となっていました。かつて、エネルギーシステムは安定した予測可能な稼働期間を提供していました。しかし現在、エネルギーシステムはかつてないほどのスピードで変化しており、そのため柔軟性には新たな要件が求められています。また、エネルギー供給システムの設計者は、エネルギー出力を最大化しながら、環境への負荷を最小限に抑えるという、消費者からの2つの重要な要求を満たすために、さらに多くの課題を抱えています。

シーメンス・エナジー社は、ヒートポンプの改良とさらなる開発を行い、統合システムの性能と設計が効率的に機能することを確認してから、配備に踏み切る必要がありました。導入後にシステムを変更すると、コストが増加し、市場投入に多大な時間がかかることになります。さらに、地域暖房システムへのヒートポンプの導入は、「一律に」できるものではありません。気候やシステムの規模などの要因により、トレードオフが異なり、複雑な設計上の決定を迫られるため、アプリケーションはそれぞれ異なります。最後に、エネルギー効率を最大限に高めるために、シーメンス・エナジー社は統合されたシステムの流量と容量をより正確に把握する必要がありました。

シーメンス・エナジー社は、ヒートポンプシステム設計のアプリケーションコストを削減し、開発プロセスを迅速化するために、システムシミュレーションを検討することにしました。システムシミュレーションの利用価値を証明するために、彼らの要求は以下のものでした。

  1. ヒートポンプの複雑性を把握できる正確なデジタルプロセスおよびコントローラモデル
  2. 幅広いオペレーションシナリオの地域暖房システムにモデルを統合する能力
  3. より良い製品設計と開発の決定をサポートする信頼性の高いシミュレーション結果

解決策

シーメンス・エナジー社は、弊社のクラウド対応しているシステムシミュレーションプラットフォーム、Modelon Impactを採用しました。詳細な過渡ヒートポンプモデルを開発し、Modelon Impact内の火力発電ライブラリの地域暖房ネットワークシステムモデル内に統合しました。このモデルは、125の消費者が15のクラスターにグループ化され、個別の負荷プロファイルを持ち、ある都市の暖房システムを実証しています。ヒートポンプモデルが地域暖房システムでどのように機能するかを確認するために、異なる独自の運転条件をシミュレーションできることは、シーメンス・エナジー社のグローバルエンジニアリングチームがシステムの運用方法を評価する上で重要なポイントでした。Modelon Impactの機能により、シーメンス・エナジー社エンジニアリングチームは、ヒートポンプの設計を協働しながら改善策を見出す事ができました。シーメンス・エナジー社のプロポーザルマネージャーであるEmil Hell氏は、「Modelon Impactがクラウド対応していることで、プラットフォームやプロジェクトに非常に簡単にアクセスすることができます。これは、チーム内のコラボレーションを促進し、設計プロセスの合理化に役立ちます。」と述べています。

さらに、シーメンス・エナジー社は、市場投入までの時間、開発コストを削減し、製品品質を向上させながら、ヒートポンプ全体を正確に構築するために、完全装備で実証されたライブラリを必要としていました。Modelon Impact内のモデリカベースのライブラリを使用し、以下の図2に示すような詳細な過渡ヒートポンプモデルを開発しました。

Detailed model of the transient heat pump
図2:  Modelon Impactを用いた詳細な過渡ヒートポンプモデル

既存のシステムの挙動を再現するだけでなく、詳細なヒートポンプモデルによって、熱交換器、バルブ、コンプレッサー、制御ループなどの設計パラメータとシステム構造を変更することができました。加えて、モデロンライブラリの柔軟な対応によるシステム内の様々な作動流体調査が可能となり、これは、高効率を維持しながら地球温暖化係数(GWP)を低減するという環境面の動向に対応するための必須条件です。

詳細なヒートポンプモデルを作成した後、シーメンス・エナジー社のエンジニアは、それをModelon Impactに標準装備されている何百ものシステムモデルの1つである地域暖房ネットワークシステムに統合し、コンプレッサー電源をすぐに使える再生可能エネルギー生産者のモデルに結合させました。この場合、図 3 に示すように、風力発電所が使用されます。

Integrated heat pump model
図3:高精度地域暖房システムと再生可能エネルギー電力供給によるヒートポンプ統合モデル。

結果

ヒートポンプシステムモデルをModelon Impactを通じて地域暖房ネットワークシステムに統合することで、ヒートポンプのフローと能力をより詳細に理解することができました。Modelon Impactとの連携は、シームレスなプロセスでした。インストラクションに従って簡単にログインし、難なくヒートポンプモデルのシミュレーションを行うことができました。」とシーメンス・エナジー社のダイナミックシミュレーションエキスパートであるAnna Sjunesson氏は述べています。完成したモデルにより、すべての利用者およびシステムに供給する従来のコージェネレーションプラントにおける温度、流量、圧力などの熱力学的状態の解析が可能になりました。ヒートポンプの設計と最適化では、高精度の地域暖房システムモデルを統合することで、以前の開発アプローチと比較して、システムの相互作用を大幅に正確に把握することが可能になりました。これにより、テスト環境においてだけでなく、実際の環境の中で最適な技術設計を行う、合理的なワークフローが実現したのです。

エンジニアリングチームが離れた場所からでもモデルにアクセスできるよう、弊社はシーメンス・エナジー社のグローバルチームのエンジニアたちに対し、Modelon Impactとヒートポンプモデルが稼働するクラウドサーバーへのアクセス権を提供しました。熱力学エキスパートであるJohn Svensson氏は、「初期テストの時点から、Modelon Impactのヒートポンプモデルは効率的に動作し、我々のチームにとって有用なリソースであると判断していました。将来的に、我々の設計プロセスのパラメータを簡単に修正・最適化できるこのモデルを使い続けたいと考えています。」と述べています。

シーメンス・エナジー社は、今後のヒートポンプ開発のためのツールとして、Modelon Impactを採用しました。Modelon Impactのモデルベースのシミュレーションソフトウェアにより、確立された効率性と信頼性の高いヒートポンプシステムを、技術的に複雑な環境に統合することができます。これにより、住宅や産業用の熱供給や熱エネルギー貯蔵のための、よりサステイナブルな解決策が実現します。

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